食道がん
食道がんの疫学
食道がんの2019年の罹患数(がん全体の中での割合)は男性21,719人(3.8%)、女性4,663人(1.1%)。2020年の死亡数(がん全体の中での割合)は男性8,978人(4.1%)、女性2,003人(1.3%)となっており、中高年の男性に多いがんです。
食道がんの症状
- 喉の圧迫感・つかえる感じ
- 胸焼け
- 吐き気・嘔吐
- 体重減少
- 胸や背中の痛み
- 咳が出る
- 声がかれる
食道がんの原因
日本人に多い扁平上皮がんは喫煙や飲酒との強い関連があります。飲酒により体内に生じるアセトアルデヒドは発がん物質で、アセトアルデヒドを分解する酵素が生まれつき弱い人(お酒で顔が赤くなる人)は、食道がんのリスクが高いことが報告されています。これにタバコが加わると数百倍のリスクになります。欧米に多い腺がんは胃酸の逆流によって生じるバレット食道が発生に関係しているといわれています。
食道がんの検査
胃カメラ検査
隆起した病変は容易に発見できますが、平らな病変の検出にはBLIなどの画像強調観察が有用です。食道がんでは血管の異常を伴うため、その部分が茶色で示されます。拡大観察を行うと、悪性度や深達度(がんの深さ)が推定できます。また、ヨード液を散布するとがんの部分が染色されないため、範囲診断に役立ちます。がんが疑われる部位があったら病理検査を行って診断を確定します。
CT・MRI検査
がんの深達度や転移の有無を調べるために行われます。がんの深達度とリンパ節転移、遠隔転移の情報を合わせてステージが決定されます。
血液検査
貧血や栄養状態の程度、腫瘍マーカー(SCCなど)による病勢評価が行われます。
食道がんの治療
食道がんの治療法には内視鏡治療、手術、放射線、化学療法があり、ステージにより決定されます。がんが粘膜内にとどまるステージ0では主に内視鏡による切除が行われますが、範囲が広い場合やがんが粘膜筋板に達している場合は手術や化学放射線療法が行われます。がんが粘膜下層内にとどまるステージIでは手術や化学放射線療法が行われます。ステージII、IIIでは手術前に化学療法を行ってから手術を行うのが標準治療です。手術の病理組織検査でリンパ節転移陽性の場合は術後に化学療法の追加を検討します。手術不可能あるいは手術を希望されない場合は、化学放射線療法や放射線治療、化学療法の単独治療を行います。近接臓器に浸潤していたり遠隔転移のあるステージIVでは化学放射線療法または化学療法単独が標準治療とされています。化学療法では免疫チェックポイント阻害剤である抗PD-1抗体も使えるようになりました。しかし、ステージIVでは患者さんの全身状態が不良なこともあり、その場合は緩和医療が中心になります。
当院の消化器がん予防・経過観察外来では、患者さま個人に合った適切な経過観察を行っています。
食道がんの予防
食道がんの原因は喫煙と飲酒です。喫煙は他のがんの原因でもあるため、現在、喫煙されている方は禁煙外来などを利用して禁煙をお勧めします。特に飲酒で顔が赤くなる人はお酒を控えるようにしてください。食道がんになった方には禁煙と断酒を強く勧めています。さらに、食道腺がんの原因となる逆流性食道炎を悪化させる肥満を予防するような食生活や運動習慣を心がけることも食道がんの予防になります。
胃がん
胃がんの疫学
胃がんの2019年の罹患数(がん全体の中での割合)は男性85,325人(15.1%)、女性38,994人(9.0%)で、がん部位別では男性3位、女性4位。2020年の死亡数(がん全体の中での割合)は男性27,771人(12.6%)、女性14,548人(9.2%)で、がん部位別では男性第3位、女性第5位となっています。胃がんはかつて国民病ともいわれるほど死亡数が多かったのですが、治療法の進歩やピロリ菌感染者の減少などで最近減少傾向にあります。胃がんは胃X線や胃カメラ検査による死亡率抑制効果が科学的に証明されています。しかし、2021年度のつくば市の胃がん検診受診率は5.9%(県平均9.2% 下から6位)と低迷しているのが課題となっています。
胃がんの原因
何と言ってもピロリ菌です。その他、喫煙や塩分の過剰摂取、野菜・果物の摂取不足なども関係しているといわれています。ピロリ菌に感染している方が全て胃がんになるわけではなく、10年で約3%の方が胃がんになると言われています。ピロリ菌について詳しくは「ピロリ菌」の項をご覧ください。
胃がんの検査
胃X線検査
胃がん検診として主に集団検診で用いられています。造影剤のバリウムと胃を膨らませるための発泡剤を飲み、胃の粘膜や形などを間接的に調べる検査です。胃X線検査で異常を指摘された場合は、さらに詳しく調べるために胃カメラ検査が行われます。
胃カメラ検査
胃がん検診では個別検診として主にクリニックや病院で行われています。疑わしい所見があったら病理検査を行って診断を確定できるのがメリットです。当院では画像強調観察により高精度な診断を行っています。
CT・MRI検査
がんの深達度や転移の有無を調べるために行われます。がんの深達度とリンパ節転移、遠隔転移の情報を合わせてステージが決定されます。
血液検査
貧血や栄養状態の程度、腫瘍マーカー(CEAなど)による病勢評価が行われます。
胃がんの治療
がんが粘膜層にとどまっていて、悪性度が低い分化型であり、潰瘍やその傷跡がない早期胃がんは大きさに関わらず内視鏡治療の適応となります。悪性度が高い未分化型でも2cm以下で潰瘍やその傷跡がないもの、潰瘍やその傷跡があっても3cm以下で分化型のものは内視鏡治療の適応となります。これらのがんは今までの研究でリンパ節転移の可能性がほぼ無いことが分かっているからです。ⅠA期の約半数はこのように内視鏡治療で治ることが期待できます。内視鏡治療の条件から外れ、遠くのリンパ節や他臓器への転移がないⅠB期、Ⅱ期、III期は手術が選択されます。手術で切除したがんの病理検査の結果で最終的なステージが決まり、術前のステージとは異なることがあります。術後にⅠ期なら経過観察、Ⅱ期とⅢ期なら再発予防目的の術後補助化学療法が行われます。遠隔転移があるIV期は化学療法が選択されます。がん細胞の表面にHER2という分子の受容体がある胃がんでは、トラスツズマブという分子標的薬を用いることで治療効果が高まることが分かっています。
当院の消化器がん予防・経過観察外来では、患者さま個人に合った適切な経過観察を行っています。
胃がんの予防
ピロリ菌が陽性の方にはピロリ菌の除菌が胃がん予防の第一歩です。家族に胃がんや胃潰瘍・十二指腸潰瘍になった人がいる方は、ピロリ菌の検査を強くお勧めいたします。内視鏡治療後の方にも再発予防目的でピロリ菌除菌を行います。喫煙や塩分の取りすぎ、野菜や果物の不足も胃がんの発症リスクを高めると言われています。禁煙や塩分が高い食品や食事を控え、野菜や果物を積極的に取るようするなど生活習慣を整えることも胃がん予防に重要です。
大腸がん
大腸がんの疫学
大腸がんの2019年の罹患数(がん全体の中での割合)は男性87,872人(15.5%)、女性67,753人(15.7%)で、がん部位別では男女とも2位で近年、増加傾向にあります。2020年の死亡数(がん全体の中での割合)は男性27,778人(12.6%)、女性24,070人(15.3%)で、がん部位別では男性2位、女性1位となっています。大腸がんは検診による死亡率抑制効果が科学的に証明されていますが、2021年度のつくば市の大腸がん検診受診率は12.5%(県平均14.6% 下から14位)と低迷しています。
大腸がんの原因
生活習慣や遺伝と関わりがあるとされています。 喫煙、飲酒、肥満、運動不足によりリスクが高まります。 食事では加工肉や赤肉の摂取との関連が指摘されています。大腸がんの死亡者数はこの20年で1.5倍、罹患率は欧米とほぼ同じになってきました。その背景には大腸がんの発症リスクとなる食生活の欧米化が進んだことが要因と考えられています。また、家族性大腸ポリポーシスやリンチ症候群など遺伝による大腸がんもありますので、親族に大腸がんになった人がいる方は若いうちに一度は大腸カメラ検査をお勧めします。
大腸がんの検査
大腸カメラ検査
便潜血検査で陽性の結果が出たときなどに行われ、大腸がんの診断には必須の検査です。病変が発見されると組織を採取し、病理検査が行われます。ポリープなど小さな病変は、その場で切除して治療も行うことができます。当院では画像強調観察と拡大観察により高精度な診断を行っています。
CT・MRI検査
がんの深達度や転移の有無を調べるために行われます。がんの深達度とリンパ節転移、遠隔転移の情報を合わせてステージが決定されます。
血液検査
貧血や栄養状態の程度、腫瘍マーカー(CEAなど)による病勢評価が行われます。
大腸がんの治療
0,I期でがんが粘膜下層の浅いところまでに留まっているのであれば、リンパ節転移の可能性がほぼ無いので内視鏡的切除の適応です。一方、がんが粘膜下層の深い部分を越えて浸潤している場合やがんが固有筋層の外まで浸潤しているII期、リンパ節転移のあるIII期はリンパ節郭清が必要なので手術が行われます。大腸がんの手術は結腸がんと直腸がんで異なり、結腸がんの場合は腹腔鏡下手術、直腸がんは開腹手術、腹腔鏡下手術のほかにロボット支援下手術が行われます。がんが肛門の近くにあり、排便機能が残せない場合には、永久人工肛門になります。Ⅲ期または再発リスクが高いⅡ期の場合は術後に化学療法を行うことが勧められます。転移のあるIV期では化学療法が行われますが、大腸がんの場合は転移した部位が切除可能なときは手術が行われることがあります。大腸がんの化学療法の進歩は著しく、様々な薬剤を使うことで、生存期間中央値も2年を超えています。また、化学療法の効果により腫瘍が縮小または消失し、手術で切除可能となる場合もあり、その場合は根治も望めます。
当院の消化器がん予防・経過観察外来では、患者さま個人に合った適切な経過観察を行っています。
大腸がんの予防
運動不足は大腸がんの中でも特に結腸がんの発生リスクを高めることが分かっており、適度な運動を組み込むことで大腸がんの発生リスクを下げることが期待されます。また、食事では加工肉の食べ過ぎを避ける、喫煙しないなども重要です。このような一次予防だけではなく、早期発見のための二次予防として、便潜血検査などの検診、特に50歳代以降では3~5年に一度の内視鏡検査を受けると良いでしょう。欧米からは5mm以下であってもすべての腺腫を内視鏡的に切除することで大腸がん発生が7割~9割抑制できること、大腸がん死亡を約5割抑制できることが報告されており、当院でも切除可能な腺腫はすべて切除することを基本にしています。ポリープの切除を行った場合には、治療の翌年に取り残しがないか確認した後、2~3年に1回のペースで内視鏡検査を受けることが勧められます。