便秘とは
排便は非常に個人差が大きく、必ずしも毎日排便があるとは限りません。消化器の学会では便秘は「本来体外に排出するべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態」と定義されています。3日以上排便がない、または毎日排便があっても残便感がある状態が具体的な目安になります。不快感を伴うことが特徴です。原因から器質型(大腸がんによる狭窄など大腸の形態変化を伴う便秘)と機能型(大腸の形態変化を伴わない機能的な便秘)に分類されます。多くを占める機能型便秘は、症状からさらに「排便回数減少型」と「排便困難型」の2つに分類されます。排便回数減少型は排便回数や排便量が減少して腸に便が過剰に貯留するために腹部膨満感や腹痛などの症状を生じます。腸内での停滞時間が長いため便が硬くなり、硬便による排便困難を生じることがあります。排便困難型は排便時に直腸内の便を十分量かつ快適に排便できず、排便困難や不完全排便による残便感を生じます。食物繊維が少ない、運動不足、肥満、糖尿病、甲状腺機能低下症、パーキンソン病、薬剤が原因で便秘になることもあります。当院では先のタイプ別に生活習慣の改善や緩下剤を基本とし、必要に応じて、その他の作用をもつ様々な薬剤を使用します。
便秘を引き起こす疾患
大腸がん
盲腸や上行結腸など右側の大腸がんは症状が出にくいといわれています。一方、S状結腸や直腸など左側の大腸にがんが生じると便秘や下痢、血便がみられます。がんが進行して大腸が閉塞してしまうと腸閉塞となり、腹痛や吐き気・嘔吐などの症状が現れることもあります。
クローン病
腹痛、下痢、血便、食欲不振などの症状がみられます。小腸や大腸での栄養吸収能力が低下するため、低栄養による体重減少を引き起こしたり、発熱、貧血、だるさといった全身症状が見られたりすることもあります。さらに腸閉塞になると、便秘や吐気・嘔吐もみられます。
腸閉塞
お腹の手術による癒着や大腸がんなどが原因で腸がふさがってしまい、便やガスが肛門へ移動できずに詰まってしまった状態です。便秘の他、お腹の張り、腹痛、嘔吐などがみられます。
痔核
排便時のいきみや便秘などで直腸肛門部の血液循環が悪くなり毛細血管の集まっている静脈叢がうっ血してはれ上がった状態のことです。突然の出血や痔核の脱出で気付きます。脱出した痔核は自然に戻りますが、進行すると戻せなくなります。軟膏や坐剤の他、重い場合は外科で硬化剤の注射や手術が行われます。
糖尿病
高血糖による大腸の自律神経障害により便秘を生じます。血糖値コントロールが悪いと神経障害を含む合併症が進行します。食事療法や薬物治療で良好な血糖コントロールを維持するとともに、食物繊維の摂取や運動による生活習慣改善を行います。下剤による薬物治療を行うこともあります。
甲状腺機能低下症
甲状腺は首にある小さな臓器で、体の恒常性(体温、体調)を保つのに重要な働きをする甲状腺ホルモンを分泌します。甲状腺ホルモンが不足することで、便秘の他にも疲労感、発汗低下、食欲不振、無気力や眠気、記憶力の低下、抑うつなど様々な症状がみられます。血液検査で甲状腺ホルモンの値を調べることで診断ができます。低下している甲状腺ホルモンを補う治療が中心となります。
パーキンソン病
体のふるえ、緩慢な動作、筋肉のこわばりで手足が動かしにくくなる、転びやすいなどの症状を呈する神経の病気です。運動症状以外の自律神経症状として便秘がみられます。
薬剤性
制酸薬、抗うつ剤、麻薬(モルヒネ製剤、リン酸コデイン)、気管支拡張剤などの薬で便秘を生じる場合があります。